~この記事は2012年、現地インターンをされていた、秋塲 優歩さんによって当時書かれたものです。~
カンボジアではお化けのことを「クマオイ」と呼びます。
そして、みんなこのクマオイが大嫌い。人をおどかす時も「後ろにクマオイがいるよ!」なんて、キャーキャー言います。
このクマオイ、嫌いなのは何も小さな子どもたちばかりではありません。キャピキャピのお姉ちゃんやお兄ちゃん、どっしり構えたおっちゃん・おばちゃんも同じ。さらにはいかつい顔をした警察官までもおれは見たんだと、本気で怖がります。嘘か本当か定かではありませんが、知り合いの話では、ある学校の校舎にクマオイがいて、目撃証言が多発したために、別の場所に校舎を移したなんて話もあるほど。
日本にいる時から信じてはいなかったお化けの存在。まして異国のお化けなんて、私にはいないも同然です。クマオイを怖がる子供たちを安心させようと「クマオイなんていないから大丈夫よ」と言うと、「いるよ!見たもん!クマオイ信じてないの!?」と、逆効果。そこにいる全員を敵に回すような結果になったり…。
3週間ほど前、村の外れで交通事故がありました。3人乗りのバイクが側溝に突っ込んで、残念ながら2人が亡くなってしまいました。それ以来、そこにはクマオイが出るようになったと子どもたちが話しているのを耳にしました。当時、私は偶然事故現場に居合わせ、一部始終を見ていたのですが、日本とカンボジアではけが人に対する応急処置も、事故への対処も随分違います。ギャラリーはあくまでギャラリー。警察官さえも無線でやり取りをするばかり。
ここでは交通ルールというものがあまり明確に認識されていません。免許証の取得・携帯が義務付けられているものの、親から運転を教わった11歳の子どもがバイクをブイブイ走らせるこの村では、それもあまり意味を成しているとは言えません。バイクは多いときは5人乗りも見かけるし、ヘルメットを被っている人の方が珍しい。車はとんでもないスピードで走っているし、車線もあって無いようなもの。この事故から私が実感したのは、日本では面倒だと思いながら通った自動車教習のカリキュラムの意味と価値です。もちろん、日本とは文化も環境も違うわけで、安易に日本の交通ルールを適用させるべきだとはいえません。とはいえ、交通事故を減らすためには、この国にとって現実的な方法で対策が講じられる必要はあると感じます。
人々がもっと交通安全を意識して、人命救助の重要性を実感できたならば、誰もが怖がるクマオイも、少なくなると思うんだけどなぁ…。
クマオイの存在を否定する私に、クマオイはいるんだ、怖いんだと全力で反撃する子どもたちの顔を見ながら、ふと、そんなことを考えました。
2012年5月21日
現地インターン 秋塲
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